スタッフ執筆コラム
「”推し”に捧げた1年と半年」
アニメーションキャラクターデザイン 林奈美
6話をご視聴いただき、ありがとうございます。
画像のシーンは原作を読みながら何度も涙した、とても印象深い場面です。
連載中、読者だった自分は霧尾くん!?と心の中でざわざわしていた思い出があります。
アニメでは、霧尾を演じる梶原さんの演技に圧倒され、私自身も涙しながら感情を込めて描きました。
また、演出の方の演技指示も素晴らしく、「目がない中でどう涙を表現するか」という点について、
違和感のない映像にするため制作スタッフ一同で試行錯誤を重ねたシーンでもあります。
さて、林の推しは、地球のお魚ぽんちゃん先生の作品です。『サボり先輩』も先日発売されました。
3年前、サテライトでアニメ化してほしい作品のアンケートに「霧尾ファンクラブ」と記入していた自分ですが、そこからご縁がつながり、SFアクションの印象が強いサテライトで本作を制作させていただくことになりました。アニメファンの方には少し意外に感じられるかもしれません。
本作のアニメ化にあたり、原作の魅力を大切にし、原作者の先生には心から敬意を抱きながら制作に取り組みました。先生からは、アニメ化にあたり各キャラクターの細かな設定が分かる原案をご用意いただき、その資料をもとに監督と打ち合わせを重ねていきました。ラフ稿についても直接フィードバックをいただき、大変ありがたく感じていました。
また、本作は青春群像劇として描くという方向性を共有し、作画や演出面でもその雰囲気を大切にするため、胸に影をつけない、イメージ背景を控える、キャラクターをデフォルメしすぎないことなど、多くの作業者に伝わるよう注意事項をまとめながら制作していました。
アニメ制作は多くの人が関わるため、意見がぶつかることもありますが、制作現場としては楽しい雰囲気を大切にし、スケジュールに追われる大変な時期があっても、最後には笑って「やって良かったね」と言い合えるような現場づくりを心がけています。
改めまして、地球のお魚ぽんちゃん先生の作品に関われたことを光栄に思います。
また、制作に携わる一員として、ご尽力いただいたすべての関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。
ぜひ最後までTVアニメ『霧尾ファンクラブ』をお楽しみください!
PS 先生がよく夢に出てきます。
初登場はまさかのお泊まり会で、ベッドに寝転がりながら一緒に笑っているという展開でした。
起きた瞬間ドキドキが止まらず、我ながらなかなかのキモオタだなと思ってしまいました。
これも先生の魅力からくる影響だと思います。
12本だけじゃ寂しいので、地球のお魚ぽんちゃん先生のアニメオリジナル作品などいかがでしょうか。

キャラクターデザイン
林奈美
恋はきっと、メロディとリズムとハーモニーでできている
a子
この曲では、メロディ・リズム・ハーモニーという音楽の三要素を、恋している時の気持ちに重ねて書いています。
好きな人のことばかり考えてしまう状態を“メロディ”、気持ちが揺れたり高鳴ったりする感覚を“リズム”、そして二人の関係そのものを“ハーモニー”として表現しました。
学生時代の恋って、どこか不器用で、でもすごくまっすぐで、少しの言葉や仕草に一喜一憂してしまうような繊細さがあると思っています。
この曲では、そんな“若さゆえの揺れ”や、“まだ形になりきらない感情”も大切にしたいと思いながら言葉を選びました。
音楽がいくつかの要素でできているように、恋もまたシンプルに見えて、いろんな感情が重なり合ってできているものだと思っています。
そのひとつひとつが少しずつ重なっていくことで、やがてひとつの“響き”になっていく――そんなイメージをこの楽曲に込めました。

霧尾ファンクラブには、私が存在しなくて面白い
波 「霧尾くん、下の名前で呼んでたね。皐月って。私たちは苗字でしか呼ばれたことないのに……」
藍美「……いや、『さ』が苗字で『つき』が名前の可能性もまだ」
波 「それはそれでやだぁ」
こんにちは、苗字が皐月のシリーズ構成担当・皐月彩です。
村岡皐月が私と同じ苗字だったら、藍美ちゃんも波ちゃんも傷つかなかったのに。私が皐月ちゃんを養子にむかえれば、霧尾くんは皐月ちゃんを苗字で呼んでいるのか名前で呼んでいるのか分からなくなって、彼女たちの傷つきも多少はマシになるぞ、と、連載当時思っていました。
そういう読み方をしているのは私だけだっただろうな。
10代のころ、確かに誰かに苗字と名前、どっちで呼ばれるかは一大事っぽかったなという記憶があります。
実際、藍美ちゃんと波ちゃんは、ほとんどの人に苗字で呼ばれていて、それが「この二人は特別な関係なんだな」と感じるギミックにもなっているわけで。
この、「ぽかったな~」っていうのは、だいたいの人が私の下の名前の方を覚えてくれてなかったせいで実感があんまりないから。
自己紹介で苗字を名乗れば「普通は下の名前で自己紹介しないよ」と注意され、苗字だと分かると私の下の名前をみんな忘れてしまう。忘却魔法のような私の苗字「皐月」。
先輩も同級生も猫も杓子も「皐月」と私のことを苗字で呼んで、下の名前何だっけ、と10年来の友人(だとこっちは思っている)にも聞かれてしまう。
あっちが私を苗字で呼ぶから、私も皆のことを未だに苗字で呼んでいます。でも、こういうバランスを気にしちゃうところも「誰かにどっちの名前で呼ばれるか」ということが、人間関係において結構大事なんだろうな、ということにつながる気がします。
皐月ちゃんはどんなきっかけで桃瀬くんと霧尾くんから「皐月」と呼ばれるようになったんだろう。男子と女子で下の名前で呼ぶって、「村岡」さんが二人いたのかもしれない。
霧尾くんは仲良くなったからってすぐに下の名前で異性を呼ぶ感じでもなさそうだし、たぶん、そんなに大した理由じゃないんだろう。
でも、その理由なんて関係なく、どうしても私たちは、この令和になっても「下の名前で異性を呼ぶってなんかすごいこと」みたいに感じる。変に噂も立ったりする。
そういう「下の名前で呼んでたキャッキャ!皐月って呼んでたもんキャッキャ!」に、「皐月」が苗字なんだと発覚してガッカリされてばかりだった私は、異性に下の名前で呼ばれるドキドキを感じぬままに10代を終えた。
あだ名も「さっつん」とか「さっちゃん」とか苗字由来だったし、付き合った人も、皆苗字で私を呼んだから。
あまり漫画の世界には、「皐月」という苗字のキャラクターが存在しない。『霧尾ファンクラブ』の皐月初登場回の脚本を書いているときにも思ったことだ。
一瞬、世界から私が切り離されていく感覚に陥る。
「珍しい苗字」がいない世界観は「リアリティがある」感じもするし、私の苗字がいないことでキャラクターたちの毎日は読者の人たちと近しいものとして輝きだす。
私の苗字をなかったことにするなって話じゃないんです。どちらかというと、そういう楽しみ方ができて、私はめちゃくちゃ楽しいんだぜ、という話。
どうでしょうか、全国の珍しい苗字の皆さん。あんまり登場する苗字じゃない私たちからすると、たまに自分と同じ苗字のキャラクターがいると「ちょっとお、こんなイケてるキャラの名前に使ったら私が負けちゃうじゃないっすか」ちょっと照れてみたり、いやいや、敵キャラかーいとツッコんだり、珍しいからこそ結構楽しめたりしませんか。
皐月ちゃんというキャラが完璧っぽい描かれ方をしていたからこそ、私はめちゃくちゃ照れながら霧尾ファンクラブを読んでいました。私も皐月ちゃんみたいだったら、作家とかじゃなくもっとキラキラで映えな生活を送っていたのかなとか妄想したりもしました。
よくいる苗字で世界と交わりやすい人がいるように、マイノリティ側だから楽しめる世界もある。
とはいえ、忘れ去られがちな私の下の名前も、親以外に呼んでくれる人がいてもいいよなあとぼんやり30年以上思ってきました。
そんな私も結婚してみると、パートナーから下の名前で呼ばれるようになりました。
皐月という苗字にもらってくれた夫は、それまで「皐月さん」と私を呼んでいた状態から、自分も皐月さんになったので「彩ちゃん」と私の呼び名を変えた。私の人生に現れた「彩ちゃん」呼びのSSRキャラ。皐月と呼ばれ慣れた私にとっては、少しこそばゆく、特別感がぐっと出てくるイベントでした。
そこでようやく私は、藍美ちゃんと波ちゃんたちがハラハラしている「名前呼びの特別感」を実感できた気がしています。下の名前呼びって、やっぱなんかすげえ特別な感じするわ!!!破壊力がやばかった。最近はすっかり慣れちゃったけど、改めて考えるとめっちゃ照れてたわ!!!
皐月ちゃん、桃瀬くんに初めて下の名前で呼ばれた時どんな顔してたのかめっちゃ気になるわ。私ならにちゃあって照れてたと思う!!! どうだった??? 女子から呼ばれるときとはやっぱ違うっすよね!!?
霧尾くんは、いつか二人を名前で呼んだりするんだろうか。
しなさそ~。全然想像がつかない。仲がいいとかそうじゃないとかの問題じゃなく、霧尾くんは二人をずっと苗字で呼ぶ気がします。
霧尾くんが過去に名前で呼んできた友だちの存在感も当然あると思いつつ、別個の問題として、藍美ちゃんは「三好さん」すぎるし、波ちゃんも「染谷さん」すぎるから。すごく、キャラに合ってるなって思っちゃうから。下の名前で呼ばれる二人はなんか二人じゃない気がするから!
はあはあ……。この感覚、分かってもらえますかね?
10代から仲のいい人たちを皆苗字で呼び続ける私からすると、苗字で呼んでるからって距離感があるってわけじゃない。ちょっと、二人が苗字含めて似合いすぎてるだけなんだよ、と言いたくなる。
それに対して藍美ちゃんは「そういう常識とかどうでもいいんで霧尾くんに下の名前を呼んでみてほしいんですけど????」と、きっと諦めなそうだけど。
しばらく経ってもずっと霧尾くんが「三好さん」「染谷さん」と二人を呼び続け、皐月ちゃんのことを「皐月」と呼んでいることに、一生やきもきしつづけては、下の名前で呼んでもらう作戦をいくつも、いつまでも二人で立てつづけて、結局あんまりうまくいかずに一喜一憂していてほしい。
たまたま上手くいっちゃったら、顔真っ赤にして「や、や、やっぱりいつもの方で大丈夫っすヨ……」と照れてほしい。
そんな彼らの「ない話」を、今でも毎日考え続けています。
実録・FANCLUBはこうして生まれた
スカート 澤部渡
オープニングテーマ”FANCLUB”を作った「スカートとODD Foot Works」のスカートの方です。普段はスカートというバンドを主宰しています。「霧尾ファンクラブ」はスカートのジャケットの数多くを手がけてくれたデザイナーの森敬太さんに勧めてもらって読み始めたのが最初だったので、まさかOPで参加するなんて!とても光栄です。
スカートは普段、正式なメンバーは私しかいないうえに内向的な性格ゆえにかなりクローズドなバンドに分類されると思います。でもときどきこうやってコラボレーションの話をもらうと、いろんな音楽の作り方があるんだな、と興奮もしますし、その分視野が広くなっていくような気がしています。今回の”FANCLUB”はまず最初にアニメ尺の89秒を目標に作り始めました。アッパーだけどそのアッパーさには人間的な繊細さがある作品なので、その性質をどうやって音楽に落とし込もうか、と探り探りやっていって現在の形に仕上がりました。イントロからPecoriくんがラップしてる間、鳴っているリフはギターの弦を2本だけ鳴らして、その1本はずっと同じところを弾いて、もう1本は上に下にと動き回る、というふうにして弾いているんですが、この感じも少しコメディっぽい、もしかしたら「霧尾ファンクラブ」っぽいのかな、なんて自分では思っています。
ODD Foot Worksの皆さまのアレンジやリリックも本当にかっこいい……自分一人で作っていたら絶対にこうはなっていなかった!スリリングでオーバー・ザ・トップなビートなのにどこか少し抜けたスラップスティックのムードも漂っていて超最高な仕上がり!アニメともども末長く楽しんでくださいッ!!!

本来の意味での「ファン」
撮影監督 志村豪
当作品のタイトルにもある「ファンクラブ」の「ファン」
これは「楽しい」などの意味を持つ「Fun」ではなく、
「熱狂的信者」などを意味する「Fanatic」の「ファン」です。
藍美と波の「推し活」はまさにこの「Fanatic」を体現したものだと思います。
2話では霧尾本人があずかり知らぬところで、
オリジナルラブ(涙なめなめ)ソングを制作し、
未遂に終わったものの、本人に送りつけようという狂気の沙汰。
二人の常軌を逸した行動は「推し活」とは何か
考えるきっかけを我々に与えてくれているのかもしれません。
皆様は「熱狂的な推し活」していますか?
撮影監督らしく映像の話もしていきたいと思います。
キモである「ラブソング~霧尾くんへ捧ぐ~」の楽曲制作シーンでは
夕方の音楽室という場面で、窓からの入射光と、
その光を受け反射して光る粒子によってシーンを彩っています。
この光の粒子は作中度々登場します。
美しく見せたいカットで賑やかしとして使われることもあれば、
今回のように話数のハイライトとなるシーンで使われることもあります。
夕焼けのオレンジの中、懸命に歌う二人の煌めきを表現しています。
一部歌詞の狂気から目を背ければ、青春の1ページといった雰囲気になったと思います。
1話でも霧尾の学ランが木に引っかかっているカットで
「霧尾くんの制服の神聖さ」が引き立つよう光や粒子が使われています。
業界外の方からすると「撮影」とは何をする仕事かよくわからないと思います。
基本的にはセルと背景を合成し、決められた動きをつける役割で、
その他にも画面にニュアンスを持たせたり、
空気感や雰囲気を作り上げていく役割を担っています。
担当するスタッフの技量やセンスによって仕上がりがガラリと変わる場合もあります。
「霧尾ファンクラブ」は撮影処理をゴリゴリに盛ったり、
前面に押し出す作品ではありませんが、
藍美たちの心の機微や、人間関係などを素直に伝えられる画面作りを目指しています。
ご覧の皆様が作品を楽しむ一助になれればと思います。
笑活 泣活のススメ
監督 外山草
第1話ご視聴くださり、ありがとうございました。
新入学新学期新年度の桜の花のころに放送スタートしましたこの作品、
新生活のお供にどうか最終回までお付き合いください。
魔法などの術をもたない普通の高校生たちが織り成すこの青春群像劇は、
誰かが誰かを思っている、そのベクトルの強さ、
更にとことん一方通行であることで織りなす笑い、切なさ、
予期できぬ出来事が展開されていきます。
誰かが誰かを思うベクトルを表現する作品の象徴として第1話では、
藍美が波を肩車するというシーンをカメラ固定のワンカットで撮りました。
アニメーション作画としては高度で難易度の高い挑戦でしたが、
スタッフの力を借りて表現することができました。
ご視聴くださった方々の胸になにかを届けられるシーンになっていたら幸いです。
藍美と波の二人が思いを寄せる(推しの)人をめぐり明るく進んでいた第1話、
ラストは一転し、雨のシーンとなり、藍美、波、それぞれ一人になります。
そこで見せる藍美と波の表情の違いも忘れずにいてください。
これから進んでいく物語のベクトルを象徴しています。
この作品で笑っていただきたい、泣いていただきたい、
笑っていいのか泣いていいのかわからくなることも度々起きます、
そんな時はぜひ笑ってあげてください、笑活、泣き活に大いに活用してください。
原作者地球のお魚ぽんちゃん先生とアニメ制作スタッフの思いのベクトルが、
どうかみなさんのもとへとどきますように


